『子どもを選ばないことを選ぶ――いのちの現場から出生前診断を問う』 大野明子編著 メディカ出版 2003年 ¥1800(税別)
読者の私がダウン症の方やその家族と関わった経験は少ない。あるときダウン症を強く疑わせる赤ちゃん、そのお母さんと生まれたその日から3日目まで過ごしたことがあった。そのお母さんはこちらがとまどうほど明るくふるまっていた(ようにみえた)けれど、3日目、一人で泣いていた。「まだ一度もおめでとうと言われていない」と。お母さんは子を愛しているのに、これから何回涙を流すのだろうと思った。何年も前のその経験が、本書を読むまで私のこころに深くつきささっていた。 この本には次のように書かれている。「まわりが受けとめてくれないなどと、両親が周囲のせいにすることもあります。けれど、それは自分が受けとめていないことを、他人のせいにしているように思えます。なぜなら、たとえまわりが受けとめていなくても、親が受けとめていれば、まわりも変わってきます。世の中にはいろいろな人がいますから、相手が変わらないなら無視することも必要です。」 ダウン症のお子さんをおもちのMさんは次のように言う。「受け容れるということで何が問題かというと、自分自身でした。自分の見栄とか、この子は知能が低いと言われてしまうことや、養護学校に行く春乃がいやだ、それを自分が受容できないということなのです。夫は『きみは有名中学に入らない子どもを嘆く親と、なんら大差ない』と言いました。」 そして、Mさんには、こんなことがあった。「私の出産後から最近にかけて、初めての子どもを妊娠した同い年の友人がふたりいます。『出生前診断はどうするの』となにげなく聞いてみたら、『春ちゃんを見ていて、問題がないとわかったから受けない』と、ふたりとも言いました。」 小中学生とこの本について率直に話す機会があった。驚いたことに、彼らは「21トリソノミー」という言葉を知っていた。理科や生物学分野(遺伝)で学習したのだそうだが、この本に書かれているような、ダウン症の人の個性や生活力については何も知らない。ダウン症の子どもやおとなと抱きしめあったり、手をつないだり、話したことのない私や社会がもっている知識というのは、同じように、ずいぶん偏っているのだろう。 私は今第2子を妊娠中である。1人目のときも、検査で知ることができる範囲の先天的な異常があることやその確率があることで人工妊娠中絶することはないだろうという漠然とした理由で、狭義の出生前診断は受けなかった。ただ、それならダウン症の子どもを望むかといえば、答えに窮したと思う。私が思い描いていた人生がどのくらい修正をせまられるのか、それを悔しく思ったり子どものせいにしたりしないかというのがその理由。でも、子どもがいてもいなくても、子どもがダウン症でもそうではなくても、人生では不測の事態を受けいれるだろうし、それもまたいいなと、そんな当たり前のことに気づいた一冊。 これからお産する方、その家族、医療者、すべての方に。専門用語には注がついているので、中高生から一人でも読める。 REBORN・白井千晶 オビより いのちを、ありがとう ダウン症をはじめ、子どもに障害があるということは、その事実がそこにあるというだけのことで、自分を恥じることもなく、子どもがかわいそうなわけでもありません。この子はこうして頑張って生まれてきたのだし、このいのちを褒められるべきなんです。 目次 1章 いのちを産む(出生前診断;ダウン症の子どもたち ほか) 著者プロフィール 大野明子[オオノアキコ] 産科医。岐阜県岐阜市出身。子ども時代は本ばかり読んで過ごした。1980年東京大学理学部化学科卒業後、東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修士および博士課程修了、理学博士。無機地球化学専攻。温泉や火山ガス中のマントル物質を探る研究をしていた。出産後子どもを母乳で育てる体験から産科医を志し、愛知医科大学医学部医学科に編入、1993年卒業する。日本赤十字社医療センター、日本医科大学付属病院、愛育病院、東部地域病院に勤務。1997年6月より出張分娩(自宅出産)専門の「九段お産相談室」(98年8月「明日香医院」と改称)を開設する。1999年6月より杉並区高井戸にて「お産の家明日香医院」開院。以降、入院分娩も扱い、現在に至る。小さなお産の家で、助産師スタッフとともに、お産に精進する日々を暮らしている。日本産科婦人科学会専門医、日本新生児学会会員、日本母性衛生学会会員。 |
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