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東向島のお産婆さまが逝く 2015/10/04

今も下町の情緒を残す東向島で親子二代のお産婆さんとして活躍され、一万五千人の赤ちゃんをとりあげた福岡光子さんが93歳で亡くなられました。
ほとんど人が家で生まれていた時代のお産婆さんが何をしていたか、その時代を頭や観念ではなく、リアルに知るだけに私の青森での体験を誰よりも理解してくれた方でした。
27年前に私が書いた、地域のお仲間と一緒に「お産婆さんの知恵」座談会をさせて頂いた記事(『P.and』1988.6)をUPします。「くの字がふたつ」という添い寝の教え方とか、仕事に出て行くときの母乳のやり方とか実践したの思い出します。そのほかにも手がガタガタ震える非常時でもさっと子どもをおぶえるのが兵児帯なんだとか、えりをつけて和服として産着を着せる方法とか・・・しばらく忘れていましたが今見返すと、本当にひとつひとつが産み育てながら働きに働いてきた女性から新しいお母さんへの愛しい子育ての知恵です。
ありがとう。福岡先生。お名前のとおりの光り輝く笑顔と私の仕事のスタートに大きなパワーとをいただいたこと、いつまでも決して忘れません。


『ひとびとの精神史』が出ました 2015/09/28

松田道雄先生について書いた「松田道雄 母親たちとともに」が掲載された本が出ました。
『人々の精神史 第三巻 60年安保 1960年前後』(岩波書店)
むしろ次の巻の「第四巻 東京オリンピック」の話だとは思うのですが、こちらに収まりました。約300ページの本のわずか30ページくらいなんですが、私にとっては、自分の「ものを言いたい!」という気持のルーツに立ち返ることができた実にありがたい機会となりました。
今回育児については思いっきり書けましたので、今度は女性や家族、老いといった松田先生の他のメインテーマについても取り組んでみたいものです。
◆『人々の精神史 第三巻 60年安保 1960年前後』(岩波書店)
http://www.amazon.co.jp/%E5%85%AD%E3%80%87%E5%…/…/4000288032


放送大学で心理臨床の講義に出演 2015/09/25

2016年度放送大学の「心理臨床と身体の病」という科目で一コマゲスト出演させていただきました。聖マリアンヌ医科大学で、喪失ケアなど周産期の心理臨床という分野を切り拓かれた臨床心理士・橋本洋子先生が担当の「生殖医療、出生前診断と心理臨床」という講義です。
テイクは、台本を橋本先生と作り込んでいたにもかかわらず時間内に納めるのが難しく(なにしろ『卵子老化の真実』と『出生前診断−出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』の内容プラス橋本先生の心理のお話を43分に納めるので!)終わった時はけっこうな達成感が。
でも、煮詰めた分、橋本先生に助けられた分、このテーマについてまたひとつ歩を進められたような気がします。
それは、出生前診断のような矛盾に満ちた葛藤をいかにありのままに受けいれるかということ。出生前診断は取材を始めてからずっとその階段を一段ずつ上ってきた気がしますし、ある意味では階段を降りてきたという方が当たっているのかもしれません。
今、日本のNICU(新生児集中治療室)には、総合周産期母子医療センターの場合、臨床心理士かそれに類する人を配置する努力義務が課せられていて、約7割の施設で達成されているそうです。そこで心理士さんたちは、相談受けます、とすわっているのではなく、すべてのお母さんに話しかけ、赤ちゃんと過ごす時間に寄り添うとお聞きしました。
出生前診断との関わりでは、検査で陽性とわかった妊婦さんと遺伝カウンセリングのあとにお会いすることが多いそうです。
doing を役割とする医療者に対し、何もできない人としてbeing「ただ、そこにいること」を役割とし、まとまりもなくただぽつぽつとこぼれてくる言葉を受けとめる器になるという心理士さんたちの仕事。
橋本先生は、doingが一杯の空間であるNICUに入室した時「何もできない人間がここにひとりいることで、お母さんたちの心に何か良い効果が現れるのでは」と直感的に感じて、それが今の仕事のインスピレーションとなったとあとで話してくださいました。この感覚は、一般人としてすごくわかる気がします。
橋本先生のシリーズ講義は全部で三時間あり、妊婦さんに関わる方にはぜひ見ていただきたい・・・けれど、放送時間はまだわかりませんので、またお知らせします!