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REPORT

添い寝の安全性

REBORN第25号(1999年10月)より

文/河合 蘭 

日本の母親は、誰に教えられなくても、親子の絆を硬く結ぶ方法を歴史的におこなってきた。自分のふとんに赤ちゃんを入れ、夜通し授乳するという方法が、それである。ところが現代の病院は、添い寝を禁じたり、不安に思ったりしている。

 添い寝をして、母親が赤ちゃんをつぶしたり落としたりする事故は、本当にあるのだろうか。実は、今アメリカで、国が添い寝の危険を警告したというニュースがテレビやラジオで流れ、話題になっている。
 ニューヨーク・タイムス社がインターネットに載せた記事によると、連邦消費者商品安全委員会は、9月29日、2歳以下の子供は大人のベッドに入れるべきではないと警告した。これは、「8年間に515人(年平均64人)の子供が大人のベッドで寝たために死亡した」というスアド・ナカムラの研究発表を受けたもの。この中で、一緒に寝ていた親、きょうだい、その他の人が子供を押しつぶした例は121例、あとの394例はマットレスとヘッドボードの間に挟まるなどベッドの構造が災いしたものだった。

 これに対して、一部の小児科医や母乳の推進グループはいっせいに反論を開始した。研究が、亡くなった子がもともと持っていた身体的リスクなどに言及していないこと、母親のアルコール中毒など特殊な背景を正確に把握していない可能性があることなどを指摘し、注意点を守れば普通の親子の添い寝は問題がない、と言っている。
 研究を発表したナカムラ氏も、赤ちゃん用のベッドなら安全、とは言わなかった。そこでもベッドの不良などで年平均50人は亡くなっているという。そもそもベッドが問題らしい。日本の家庭は、畳の家が多い。アメリカ人は思いつかないだろうが、畳の添い寝なら、かなり安全性が高そうだ。
 添い寝に詳しいノートルダム大学の生態人類学者ジェームズ・マッケナ氏は「添い寝の赤ちゃんは泣くことが少ない。母乳に関しては、別ベッドで寝ている子に比べて2倍の頻度で、3倍の長期に渡って飲んでいる」という研究を発表している。

 睡眠時の事故としては、今、SIDS(乳児突然死症候群)が注目されているが、進行中の14カ国共同研究では添い寝との関係も調べられている。たばこを吸う母親の添い寝はSIDS発生を増やすという報告もあるが、総じて、日本などSIDS発生が少ない国では添い寝の率が高い。
 母乳トラブルも、添い寝自体が原因になることはないはず、と本郷寛子さん(国際認定母乳コンサルタント)は言う。
 「ポイントは、横抱きと同じ。おっぱいを深くくわえさせ、唇が外向きに開いていること、赤ちゃんの首だけをおっぱいに向けるのではなく、からだ全体をお母さんの方に向かせることが大切」
 添い寝率のデータはとても少ないが、今回のSIDSの研究では、日本人は生後3ヶ月の時点で287人中107人(37%)が添い寝をしていた。

 病院ではどうかというと施設差が大きいと思うが、「添い寝を禁止もしていないし、すすめてもいない」東京・日赤医療センターでは、助産婦の川井由美子さんによると、3割くらいの人が添い寝をしている。その大半は経産婦。「初産の人は、赤ちゃんが寝ないで困っている場合には助産婦が添い寝を提案する」 
 日本の平均的な母乳の授乳期間は、今、半年程度。これは、毎晩、数回起きあがることに、ひとりの人が何ヶ月耐えられるかを語っている。生活はすっかり西洋化されても、私たちは、夜は、日本の親子に帰りたい。当たり前の育児の知恵が伝えられず、複雑なことばかり教わる病院の入院生活は、どこか軸が曲がっている。 


マッケナ博士による添い寝の注意点
 
●たばこを吸っていたり、アルコールあるいは薬物を摂取している親は、添い寝をしないこと
●シーツ類は、マットレスにぴったりしていること
● マットレスとベッドのヘッドボードの間に隙間がないこと
● 赤ちゃんの顔の近くに余分な枕や柔らかい毛布が何もないこと
● ベッドと、それが接する壁のあいだに、赤ちゃんが転がったりはまったりする可能性がある空間がまったくないこと
●赤ちゃんをうつぶせに寝かせないこと


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