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ホーム > インタビュー集トップ > 『再生自転車がアフリカで赤ちゃんを救う絵本「ピカピカ」』
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インタビュー集
本を読んで会いたくて

ピカピカ
偕成社 1400円(税別)
田畑精一さん


インタビュー・文 三好菜穂子
(REBORN第23号1999年4月より転載)

絵本「ピカピカ」は、捨てられた自転車"ピカピカ"が少女に助けられ、やがてアフリカに渡り、現地の助産婦の足となって大活躍する再生と希望の物語。25年前に発行され、今なお子どもたちに読み継がれる「おしいれのぼうけん」、先天性四肢障害児の生き生きとした姿を描いて話題になった「さっちゃんのまほうのて」など、数多くの絵本や、児童書の挿絵を手がけてきた著者の田畑精一さんを訪ねた。偶然にも、その日は田畑さんの68回目の誕生日だった!

捨てられたものたちのパワー


三好 (財)ジョイセフが中心になって行っている再生自転車を途上国に送る運動(注1)が、ベースになっていますね。


田畑 そうです。60歳になってそろそろ私も老人の仲間入りというときに、『世間から捨てられかねない年寄りだって、ちゃんと生きたいんだし、生きているんだ!』という本を作りたいと思っていたんです。『ブレーメンの音楽隊』という話があるでしょ? 役に立たなくなって捨てられた動物たちが集まって泥棒をやっつけるという。あれこそ、捨てられたもののパワーですよね。そんなとき、たまたまジョイセフの再生自転車を送る活動のパンフレットに出会って,共通するものを感じました。そこで,駅前や路上に捨てられた自転車が、ちょっと世間から捨てられかけた(笑)シルバー事業団のおじいさんによって再生されて、これから生まれてくる赤ん坊を助ける、という命の循環のような話を絵本にしようと。実は、川が氾濫して車が通行できなくなってしまったなか、現地の助産婦さんが自転車をかついで川を渡って山奥の村に行き、無事赤ちゃんを取り上げて、自転車ともども大統領から勲章を贈られたというタンザニアで実際にあった話が下敷きになっているんです。

● 「物をあげる」ということ


三好 ついには、ジョイセフのスタッフに同行してアフリカにまで取材されましたよね?


田畑 93年にケニア、タンザニア、ザンビアを回ったのですが、アフリカに行った理由はね、アフリカの人たちって素敵でしょ? 顔もとってもいい顔していますしね。そういう人たちに会ってこないと絵が描けないという気持ちと、「物をあげる」ということを自分の目で確かめたい、というのが大きな動機です。「物をあげる」、つまり対外援助というのが、ほんとに必要な人にものを手渡すことになっていない場合が多いのです。ジョイセフの場合は、実際に必要としているところまで出かけて品物を手渡して、その後も毎年、現地を見て歩く。そうした姿勢に共感しました。現地の草の根保健ボランティアに寄贈された自転車は,保健婦、助産婦などに渡り、今まで歩きだった家庭訪問の移動時間を半分にしたそうです。


三好 現地を取材していかがでしたか?


田畑 昔、日本の家庭や学校では、足踏みミシンを使っていましたよね。今では、電動式にとって変わる不要になった足踏みミシンも、ジョイセフでは現地のお母さんグループに送っています。現地のお母さんたちが、子どもの服を縫ったり、作ったものをバザーで売ってグループの活動資金にしたり、勉強会をして意識を高めようとしている。ジョイセフの正式名称は「家族計画国際協力財団」というのですが、避妊具を与えるだけではなく、女性たちの意識の向上によって人口問題を考えていこうという姿勢が、とても本質的だと感じました。


三好 日本政府も、対外援助には相当お金をかけていますね。


田畑 ある国で、新しい橋のテープカットのときに「自助努力こそ大切」と、日本大使が演説すると、その国の大統領は「いいお話でした。で、次は何を作ってくれるのですか?」と言ったそうです(笑)。いまだに物々交換をしていてお金にまったく意味がないような土地に、もともとあった文化を無視して、近代文明をポンッて持ってくるような援助は疑問ですね。援助のはずが逆にその国の経済を破壊しかねない。実際、米ソの冷戦時代に援助合戦でザンビアに作られた工場地帯は,今はゴーストタウンになっています。

● 子どもに語ることの責任


田畑 ザンビアでは失業率が90%もあるのに、暴動がおきないんです。その背景には,日本と比べ物にならないくらい親・兄弟・親族を大事にする共同体意識があると思います。持っている者は、持っていないものを助けるのが当然という文化で成り立っているんですね。もっともその意識が変革を妨げている面もあるのですが・・・。


三好 共同体では、お年寄りは大事にされているんですか?


田畑 僕の絵の中にも出てきますが、村のグループの中心には必ず年取ったお婆さんがいて,歌を歌うときも皆を引き立てるようにして、その人が歌いだしたりします。まわりも、とても大事にする。たぶん、取り上げ婆さんのような人なんだと思うのだけど、そういう人を立てながらも、近代の医学のいいところも取り入れようとしている。日本が学ぶところはあるでしょうね。


三好 田畑さんは大阪のご出身ですが、助産婦さんについての思い出は何かありますか?


田畑 僕の家のすぐ近くに、あの「緒方産科学」の緒方病院があったんので、そこの助産婦さんが自宅に来て、僕を取り上げてくれたそうですよ。


三好 「おしいれのぼうけん」のときは実際に保育園に入園したり、「さっちゃんのまほうのて」のときは、先天性四肢障害児父母の会キャンプや集まりに何度も参加されたりと、綿密に取材をして、じっくりと絵本を作られていらっしゃいます。


田畑 「子どもは騙せない」というけど、子どもは簡単に騙されるんです。騙されやすいからこそ、「絶対に騙さない」という責任があるんです。あの戦争(第2次世界大戦)のとき、僕は子どもで、「日本勝った!支那負けた!」なんて、提灯行列をしたり、『お国のために命を捧げましょう』と、本気で思っていた。終戦の年に、父親が兵器工場で亡くなり、直接ではないけれど、戦争に殺されたと思いました。中学1年の僕は「アメリカに原子力爆弾を落としてやるっ!」と真剣に考えました。大学に入ったときには、さすがにもう爆弾を作ろうとは思わなかったけど、人形劇に出会って「子どもたちを戦争嫌いにさせよう」って。とにかく親のかたきは戦争ですからね。楽しく生きるのが大好きなそういう子どもたちが大きくなれば、戦争は起こらない(笑)。そこが原点ですね。


三好 ずっと子どもに関わる仕事をされてきて、子どもが変わって来たと感じたことはありましたか?


田畑 僕が描く子どもはどうも、人形劇をやっていた1950年〜60年代の、貧しいけれど今よりずっと生き生きしている、元気な子どもたちなんです。70年代を境に少しずつ子どもたちが変わってきて、ここ15年くらいで急激に変わってきました。アフリカの子どもたちは、びっくりするくらい目がキラキラしていて、精気があってチャーミングでした。世界中歩いても、先進国の子どもほど元気がない。貧しい国ほど、子どもたちが生き生きしているというのは、これは大問題ですね。

 

注1) (財)ジョイセフが推進している「途上国の草の根保健ボランティアに再生自転車を贈ろう運動」のこと。再生自転車1台を、一人の保健婦、助産婦、家族計画普及員が手にすることで、途上国の無医村で500〜800人に基礎的な保健・医療活動を行うことができるという。募金のほかに、使用済み切手や書き損じハガキでも支援ができる。問合せは、下記の(財)ジョイセフまで。文中へ戻る

『ピカピカ』の英語版が出版されています。1冊2,310円(税込、送料無料)。
代金の一部が再生自転車海外譲与の活動費に活用されます。
問合せは、財団法人ジョイセフ(家族計画国際協力財団)「絵本ピカピカ」係まで。
domestic@joicfp.or.jp
〒162-0843 東京都新宿区市谷田町1-10 保健会館新館    03-3268-5875 Fax 03-3235-9774

 

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