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もっと学びたい!もっと見守りたい!

REBORN講演会「これからのカンガルーケア」レポート

文 / 河合 蘭

8月8日のREBORN講演会「これからのカンガルーケア」は満席を超える状況で開かれ、会場は全国からいらした専門家の熱気であふれました。

永井周子さんの講演はそばの人と握手をするアイスブレイクから開始。会場の空気がふわっと緩むと、永井さんはいきなりとても大切なメッセージを。「お相手の手は、温かい手でしたか。触る前にそんな手だったなんて思っていましたか。肌と肌の触れあいで得られることはとても大きいんです。それは科学ではまだ充分解明できていないけれど、そこには確かに何かがある。それを今みんなが気づき始めている。だから、カンガルーケアがこんなに関心を集めているのでしょう」

カンガルーケアの歴史や各国での様子は、見ているだけで幸せになるたくさんの写真とともに紹介されました。南米ボコダで始まったオリジナルのカンガルーケアは、低出生体重児を保育器に代わり24時間抱っこして早期退院を目指すものです。大変そうですがフォローアップはしっかりしており、家族、親族も手伝うのでみんなが赤ちゃんを愛しく思うようになり、貧しい家庭でも一生懸命小さい赤ちゃんを育てているそうです。

先進国にも、スウェーデンなどには24時間カンガルーケアの病院があります。NICUの中に設けられた夫婦のダブルベッドつき個室の写真はとても家庭的で、多くの参加者が目を見張りました。

また永井さんはカンガルーケア・ガイドラインの作成者のひとりとして、EBM(科学的根拠に基づいた医学)についても解説してくれました。出産直後のカンガルーケアには、果たしてエビデンス(科学的根拠)はあるのでしょうか?

信頼度が最高レベルの研究デザインはランダム化比較試験:RCT(無作為に抽出した2つのグループの比較研究)のシステマティクレビュー(複数のRCTを統合した解析)ですが、その代表である「コクラン・ライブラリー」には出生直後のカンガルーケアに関するレビューが存在します。

それによると、母乳育児の継続期間や愛情行動などいくつかのことは、着衣の従来の接触よりカンガルーケアの方が少しよいということがわかりました。しかし、このテーマのRCTはアイコンタクト、母乳育児など各研究の指標がまちまちで統一性がなく、そこが信頼できる根拠としては弱かったそうです。そのため、今後の研究でもっと指標をそろえるようにし、よりよい科学的根拠にしていこうという結論になっているそうです。

最高レベルの科学的根拠を求める検証には時間がかかります。しかし、コクラン・ライブラリーにレビューがあるということは、世界の臨床家・研究者たちがここに強い関心をもって挑み続けている証拠。永井さんは、ねばり強く研究していくことが大切だと言います。

「ガイドラインは、エビデンス・その地域の資源や環境(Resources)・ 価値観(Values)の三者が交わる部分を多人数のチームで探しながら定めます。エビデンスはすべてではありません。でも医学の中でおこなう以上は、エビデンスがなければ、やはり未成熟な分野。あやしい痩せ薬と同じになってしまうんですよ。医療に関わる人はそのことを理解して、必要だと思うのにエビデンスがまだ十分にないことを見つけたらきちんと研究していく態度が大事だと私は考えています」

後半のディスカッションでは、新生児科医の参加者から呼吸についての医学的助言や「お産の質から考えるべき」といった問いかけなど大切な発言が続き「胸にポンと載せるだけがカンガルーケアではない」ということがどんどん明らかになっていきました。

新生児室についても話題は及び、『紙REBORN』前号でもコメントをして下さった網塚貴介医師からは「出生後に十分な観察もなされないままに新生児室に放置され、生後間もない赤ちゃんが亡くなる事故が起きている。カンガルーケア中の事故とこうした事故との共通項は「赤ちゃんを見守るスタッフがいないこと」という発言がありました。参加した助産師さんの中には、「もっと見守ってあげなければ」という思いがこみあげたことでしょう。

助産師さんたちも、本当は赤ちゃんのそばを離れたくはないのです。しかし、ぎりぎりの人数で勤務を回しているので、どうしても空白の時間が出てしまうのです。

最後に永井さんから「カンガルーケアという名前は一緒でも、日本は施設によってその内容が大きく違うようだ」という言葉がありました。「カンガルーケアという名前だけが一人歩きしているような印象があります。目的や手順を今一度見直し、もっと学んでいくための何かが動き出さなければならない時期かもしれません。」米国ではカンガルーケア実施するスタッフが学ぶコースも始まっているとのこと。日本にも学びたい人はたくさんいるはずです。

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■もっと知りたい方へ

◆紹介されたコクランレビューの概要はネットで読めます。

Anderson GC et al. 2003,2007 Early skin-to-skin contact foe mother and their healthy newborn infants

http://www2.cochrane.org/reviews/en/ab003519.html

◆カンガルーケア・ガイドラインは日本医療機能評価機構の情報提供サイト「Minds」に掲載されています。

http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0068/1/0068_G0000190_GL.html

◆カンガルーケアの事故報道から見えてきたもの

カンガルーケアの最中に異変を起こす赤ちゃんがいるのはなぜ?その根底には人員不足の問題があることを伝えたREBORNの記事です。

http://www.web-reborn.com/topix/201006kangaroocare/kangaroocare.html

『小さく生まれた赤ちゃんのカンガルーケア』

南米ボゴタで始まったオリジナルのカンガルーケアとは?ボゴタの聖イグナチオ病院小児科に勤務するカンガルーケアの世界的第一人者・ナタリー・シャルバックの著書。永井周子さんの翻訳書です。

お産図書館『小さく生まれた赤ちゃんのカンガルーケア』

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