不満を感じた人の言葉を、聞きたい 2003年9月5日、(社)日本助産師会は、助産院の事故やクレームについて誰でも無料で相談できる電話を開設した。「安全対策室」と名付けられたこの電話相談は、助産院の安全性を向上させ、社会的信頼をより確かにするための試みだ。担当には、同会の副会長で、開業、行政、教育など様々な場で活躍してこられた三井政子さんがあたる。(現在は、同会の理事で前事務局長の岡本喜代子さんが担当している)
主な対象は二通り。まず、開業助産師自身が女性から苦情を言われたり、事故やそれに近い事態が起きたとき、対応について相談することができる。そして、これがユニークなのだが、助産院でケアを受けたが不満や疑問を感じてしまった女性にも、この電話は開かれている。
助産院のケアで出産する人は、自宅出産も入れると、今、年間14,000人弱(2001年)。その中には、助産院に期待した「暖かく幸せな自然出産」のイメージと現実が違ってしまった人もいる。
日本助産師会には、これまでもそうした声が寄せられてきた。それに対応してきた岡本喜代子さんによれば、女性からの苦情は、「掃除が行き届いていない、納得できない金額を請求された」といったことから、「医療事故にあったのではないか」という疑問を持っている人などさまざまだったという。今回の電話設置には、こうした声をより多くの人から吸い上げ、苦言に耳を傾けることで助産院の改善に努めたいという意図がある。 声はどのように使われる?
女性からの声は、どう生かされるのだろうか。「深刻な悩みを抱えておられる方は、少しでも早くご家族みんなが安心できるよう、時には第三者の立場で調停役になって解決をはかることもあります。そこまでいかない問題の場合は、相談者が誰かは特定できないように注意しながら、名前が出た助産院に電話をして内容を伝え、事情も聞きます。両者の言い分を聞かなければ何があったのかは本当にはわからないですから。その上で、これからどうしていくべきか、話し合います。聞いただけでは終わりにしません。実際に改善してくれなければ、意味がありません」(岡本喜代子さん)。会誌などで、相談内容を報告していくことも考えているという。
苦情の中には、「助産院で薬剤を使われた」など医療行為に関するものもある。だが、緊急時の医療行為は助産師にも認められており、ときには必要になる。「立場の違う人から話を聞いていくと、食い違うことは多いです。そういうときは、カルテを見に行ったりします」(岡本さん)。マイノリティーである助産院は誤解がクレームになることも多いのだが、時には無理をしてしまっているケースもある。 安全基準のガイドラインも準備※(1)
この時代に医療がおこなえない助産院が生き残るには、ただ「自然で素晴らしい」と言うだけでは、明らかに足りない。自然出産が静かなブームになり助産院の人気が出てきたが、これからは、自然志向の人のみならず社会全体に受け入れられるかどうか試される時期ではないだろうか。
日本助産師会は、この数年、安全対策には重点を置いてきた。2000年、医療事故防止・安全対策委員会(現在は安全対策委員会と改称)を発足させ、今は、助産院の安全性を推し量る機能評価基準の作成に取り組んでいる※(2)。2001〜02年には、徳島大学長・青野敏博氏を中心に、助産院で安全に扱える条件を試作する研究がまとめられた。ここで作成されたガイドラインを、日本助産師会は、出産を扱っている開業会員に近々配布する予定※(3)。将来的には、ガイドラインを守り助産院機能評価を受けた助産院への認定マークを発行し、公開して、女性が助産院を選ぶときの目安にしてもらうところまで行きたいという。
専門家の職能団体は、その職業の質向上を目的に掲げながら、その実、自分たちの保身に専心してしまう落とし穴を持つ。しかしそれでは、社会がその職業を信じなくなってしまうだろう「女性の声に耳を傾けなければ。そうしないと、結局、助産院自身がつぶれます」(岡本さん)今回の電話設置は、助産師が新しい時代を目指すひとつの覚悟を示すものである。 ※(1)(2)現在では、安全基準ガイドライン、機能評価基準は作成されている(機能評価は自己評価推進の段階)。 ※(3)現在では、全助産院に配布完了。 (2003年9月 記す) (2004年2月 現状が変わった箇所を加筆) ◆日本助産師会 安全対策室(無料)
tel: 03-3262-5083 毎週金曜日 10:00〜16:00 ※来所しての相談もできる(要・予約)。 来所予約電話
tel: 03-3262-9910 土日・祝祭日を除く 10:00〜17:00 |